混乱の世紀――『南朝全史 大覚寺統から後南朝まで』

南朝全史-大覚寺統から後南朝まで (講談社選書メチエ(334)) 
著:森 茂暁

 

全体の構成

全史という言葉の通りに通史となっている本書の構成としては、南朝という存在を規定するために大覚寺統の発足から南北朝時代、そして後南朝と呼ばれる時代を貫いて描く形となっています。
特に、大覚寺統という存在の入り組んだ構成はかなりわかりやすく整理されて説明されていると感じ取りました。この辺りは教科書を読んでいても割と何が何やら、という印象なんですよね。
全体を捉えながら人物を中心に追っていくという構成のお陰でしょう。

 

先行研究とは異なる少し立ち位置

面白かったのが、当時の存立に強い影響を与えていた鎌倉幕府の立ち位置です。
皇位問題は「聖断」(天子の裁断)で行うように、という鎌倉幕府のスタンスは持明院統大覚寺統との対立の中で重んじられる事はなく、否が応にも皇位継承問題に巻き込まれていく事となります。
それが持明院統の幕府へと接近、そして大覚寺統のそれに相反する幕府とは距離を置いた独自の道を行くスタンスの確率へと繋がり、遠因としては鎌倉幕府の滅亡へと繋がるという観点は面白く読む事が出来ました。

 

四人の天皇

建武の新政を経て、南朝が成立した後は著者が収集した論旨と称される天皇の意思を示した文書を元に南朝の四人の天皇の行動の足跡を辿る事となり、後醍醐天皇以外はその後を継いだ後村上天皇の精力的な活動を行っている姿が浮かび上がってきます。
もちろん、その背景としては九州における征西府の存在があるのですが、この辺りにあまり紙面が割かれないのは通史ですから致し方無いでしょう。

 

もう一つの政権としての南朝

歴史的資料として「新葉和歌集」を用いている事も興味深い所です。この「新葉和歌集」の歌会の参加者や詠まれた時期から南朝の構成メンバーや南朝で行われたイベントを読み解く形を取っています。
この事から、意外に分厚い構成メンバーの層や略式であれど各種の儀式が吉野でも行われていた姿を思い浮かべる事が出来るのは、著者の思い通りといった所でしょうか。